ファーストアルバム「Eternal Story」のライナーノーツを公開!
2010/11/17
- アーティスト
- Fire Lily
絶望の大地に希望を運ぶ花=Fire Lilyの名を持つ本格派シンガーが描いた美しい音楽の花。 その不屈の歌声は強くやさしく温かく、心に笑顔をもたらす。
Fire Lilyがまだそう名乗る前、シンガーMARUとしてライブをしていたとき、彼女の歌声を初めて聴いて、ふと“生命力のある歌声”だなと感じた。ネガティブなことを一挙に払いのけてしまうような、周りの空気がキラキラと輝き出すような、圧倒的な“歌ヂカラ”。彼女のヴォーカルの魅力は、きっとそんなところにあると思う。実際に会った本人にも、それはそれは強い生命力を感じた。よく笑い、よく話す。自らの意思をまっすぐに投げかけてきて、どんな話題であってもその言葉に淀みを感じさせない。「人生において一番大切にしているのは、後悔しないこと」――ときとして陳腐に聞こえてしまうそんな言葉も、彼女の凛とした佇まいから発せられると重厚な響きを持って迫ってくるわけで……。
Fire Lilyは、どこかグイと人を惹きつけるような言い知れぬパワーを持った不思議な人なのである。
そんな彼女を形成している重要な要素には、言うまでもなくブラック・ミュージックの存在がある。小学生のころ、夢中になって聞いていた久保田利伸のラジオ。彼がおすすめしていたアイズレー・ブラザーズ、オーティス・レディングといった往年のソウルとの出合い、それこそがすべての始まりだった。「聴いてはみたものの、当時はさっぱり良さがわからなかった(笑)」と言うが、黒い音に触れたその経験はのちにR&Bやジャズの世界へと誘う伏線となっていく。
高校時代にはモニカやアッシャーなどビルボード・チャートを賑わすR&Bにハマり、大学進学後にはジャズのサークルでバンドを組み、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンなどのカヴァーでインプロビゼーション(即興)にも挑戦するようになった。同時に、アカペラ・グループを結成してゴスペルを歌うなど、大学時代はとにかくブラック・ミュージック漬けの日々だったと語る。
「ソウルの良さをわかるようになってきたのも、このころ。チャカ・カーンは歌い手として一番影響を受けているアーティストです。自分はソウル、ジャズを歌っていきたいんだと意識し始めたのも、このくらいの時期かな」
京都の大学を卒業し、上京してからはクラブで夜な夜な自然発生的に始まるジャム・セッションに積極的に参加した。「grooveline、さかいゆう、HanaH、JAMNUTS、毎晩のようにいろんなミュージシャンがジャムっていて本当に楽しかった。今のバンド・メンバーも当時からの付き合いだし、私の音楽仲間の輪はそこから始まっているんですよ」
本格的にソロ活動を決意したのは、約3年前の話。彼女の圧巻の歌声は、沖野修也プロデュースのセッション・バンドROOT SOULへの参加をはじめ、その縁でつながったイギリス発バンド、ブラン・ニュー・ヘヴィーズのアメリカ5都市(ニューヨーク、シカゴ、ボストン、ワシントンD.C、フィラデルフィア)ツアーへの参加など、コーラス、フィーチャリング方面でも熱望されるようになっていった。ちなみにブラン・ニュー・ヘヴィーズのツアーは、ただ一人のコーラスに抜擢されたほどの快挙。ソロ・パートも披露し、シビアなリアクションで知られるアメリカのオーディエンスをも熱狂させたという。
そうした流れを経て完成したのが、記念すべきデビュー・アルバム『Eternal Story』だ。つい数年前までは「ジル・スコットのようなネオ・ソウルばかり歌っていた」と言うが、本作を聞くと、必ずしもそれだけが彼女のスタイルでないことがわかる。むしろ、そうした側面は影を潜めたように感じるのだが、それは今作からFire Lilyとして新たな道を歩み始めた証でもあるようだ。
「ブラック・ミュージックは私の音楽ライフにおける大切な部分。だけど、それだけじゃなく、日本人の私にとってリアリティのある音楽をやりたいと思ったんです。たとえば、日本語と英語とでは、同じ意味の言葉を歌っても、きっと行間に潜む感情が違うんですよね。ここ数年は、そうやっていろいろと言葉の重要性を痛感することが多くて、より日本語で歌詞を書くことの意味を考えるようになったんです。自分の中にある日本人としての感覚を大事にした歌を作りたいという想いが強かったですね」
さらに、’07年Dreams Come Trueのツアーにコーラス参加した当時を思い起こして、こう続ける。
「(吉田)美和さんは、いつもお客さんに自分の想いをまっすぐに伝えていて、だからあんなにお客さんの心に響く。それは自分の言葉で歌っているからこそなんだな、と身に沁みました。いかに素直に自分の想いが詰まった歌を歌えるか。今回はそこに向き合って、等身大の自分を表現したアルバムなんです」
より言葉が拾いやすいメロディーを。そんな意図がしかと伝わるバラード主体の構成がまたいい。Fire Lilyの歌声そのものが際立っていて、つまり前述した“圧倒的な歌ヂカラ”を堪能できる内容なのだ。これはまさしくFire Lilyの真骨頂的アルバムと言えるだろう。
「Eternal Story」(永遠の物語)というタイトルには、「人生最期のときまで歌い続ける」というFire Lilyの決意表明的な想いが込められていると言う。
Fire Lily、それはアフリカの野火のあとの原野に忽然と咲く花。絶望の大地に希望を運ぶ花。「私の音楽もそうでありたいという願いを込めて」――ここから始まるFire Lilyの物語、その力強く逞しい第一歩を祝福したい。
text by 岡部徳枝
ファーストアルバム「Eternal Story」のライナーノーツを公開!
2010/11/17
「Eternal Story」Liner Notes
絶望の大地に希望を運ぶ花=Fire Lilyの名を持つ本格派シンガーが描いた美しい音楽の花。 その不屈の歌声は強くやさしく温かく、心に笑顔をもたらす。
Fire Lilyがまだそう名乗る前、シンガーMARUとしてライブをしていたとき、彼女の歌声を初めて聴いて、ふと“生命力のある歌声”だなと感じた。ネガティブなことを一挙に払いのけてしまうような、周りの空気がキラキラと輝き出すような、圧倒的な“歌ヂカラ”。彼女のヴォーカルの魅力は、きっとそんなところにあると思う。実際に会った本人にも、それはそれは強い生命力を感じた。よく笑い、よく話す。自らの意思をまっすぐに投げかけてきて、どんな話題であってもその言葉に淀みを感じさせない。「人生において一番大切にしているのは、後悔しないこと」――ときとして陳腐に聞こえてしまうそんな言葉も、彼女の凛とした佇まいから発せられると重厚な響きを持って迫ってくるわけで……。
Fire Lilyは、どこかグイと人を惹きつけるような言い知れぬパワーを持った不思議な人なのである。
そんな彼女を形成している重要な要素には、言うまでもなくブラック・ミュージックの存在がある。小学生のころ、夢中になって聞いていた久保田利伸のラジオ。彼がおすすめしていたアイズレー・ブラザーズ、オーティス・レディングといった往年のソウルとの出合い、それこそがすべての始まりだった。「聴いてはみたものの、当時はさっぱり良さがわからなかった(笑)」と言うが、黒い音に触れたその経験はのちにR&Bやジャズの世界へと誘う伏線となっていく。
高校時代にはモニカやアッシャーなどビルボード・チャートを賑わすR&Bにハマり、大学進学後にはジャズのサークルでバンドを組み、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンなどのカヴァーでインプロビゼーション(即興)にも挑戦するようになった。同時に、アカペラ・グループを結成してゴスペルを歌うなど、大学時代はとにかくブラック・ミュージック漬けの日々だったと語る。
「ソウルの良さをわかるようになってきたのも、このころ。チャカ・カーンは歌い手として一番影響を受けているアーティストです。自分はソウル、ジャズを歌っていきたいんだと意識し始めたのも、このくらいの時期かな」
京都の大学を卒業し、上京してからはクラブで夜な夜な自然発生的に始まるジャム・セッションに積極的に参加した。「grooveline、さかいゆう、HanaH、JAMNUTS、毎晩のようにいろんなミュージシャンがジャムっていて本当に楽しかった。今のバンド・メンバーも当時からの付き合いだし、私の音楽仲間の輪はそこから始まっているんですよ」
本格的にソロ活動を決意したのは、約3年前の話。彼女の圧巻の歌声は、沖野修也プロデュースのセッション・バンドROOT SOULへの参加をはじめ、その縁でつながったイギリス発バンド、ブラン・ニュー・ヘヴィーズのアメリカ5都市(ニューヨーク、シカゴ、ボストン、ワシントンD.C、フィラデルフィア)ツアーへの参加など、コーラス、フィーチャリング方面でも熱望されるようになっていった。ちなみにブラン・ニュー・ヘヴィーズのツアーは、ただ一人のコーラスに抜擢されたほどの快挙。ソロ・パートも披露し、シビアなリアクションで知られるアメリカのオーディエンスをも熱狂させたという。
そうした流れを経て完成したのが、記念すべきデビュー・アルバム『Eternal Story』だ。つい数年前までは「ジル・スコットのようなネオ・ソウルばかり歌っていた」と言うが、本作を聞くと、必ずしもそれだけが彼女のスタイルでないことがわかる。むしろ、そうした側面は影を潜めたように感じるのだが、それは今作からFire Lilyとして新たな道を歩み始めた証でもあるようだ。
「ブラック・ミュージックは私の音楽ライフにおける大切な部分。だけど、それだけじゃなく、日本人の私にとってリアリティのある音楽をやりたいと思ったんです。たとえば、日本語と英語とでは、同じ意味の言葉を歌っても、きっと行間に潜む感情が違うんですよね。ここ数年は、そうやっていろいろと言葉の重要性を痛感することが多くて、より日本語で歌詞を書くことの意味を考えるようになったんです。自分の中にある日本人としての感覚を大事にした歌を作りたいという想いが強かったですね」
さらに、’07年Dreams Come Trueのツアーにコーラス参加した当時を思い起こして、こう続ける。
「(吉田)美和さんは、いつもお客さんに自分の想いをまっすぐに伝えていて、だからあんなにお客さんの心に響く。それは自分の言葉で歌っているからこそなんだな、と身に沁みました。いかに素直に自分の想いが詰まった歌を歌えるか。今回はそこに向き合って、等身大の自分を表現したアルバムなんです」
より言葉が拾いやすいメロディーを。そんな意図がしかと伝わるバラード主体の構成がまたいい。Fire Lilyの歌声そのものが際立っていて、つまり前述した“圧倒的な歌ヂカラ”を堪能できる内容なのだ。これはまさしくFire Lilyの真骨頂的アルバムと言えるだろう。
「Eternal Story」(永遠の物語)というタイトルには、「人生最期のときまで歌い続ける」というFire Lilyの決意表明的な想いが込められていると言う。
Fire Lily、それはアフリカの野火のあとの原野に忽然と咲く花。絶望の大地に希望を運ぶ花。「私の音楽もそうでありたいという願いを込めて」――ここから始まるFire Lilyの物語、その力強く逞しい第一歩を祝福したい。
text by 岡部徳枝
絶望の大地に希望を運ぶ花=Fire Lilyの名を持つ本格派シンガーが描いた美しい音楽の花。 その不屈の歌声は強くやさしく温かく、心に笑顔をもたらす。
Fire Lilyがまだそう名乗る前、シンガーMARUとしてライブをしていたとき、彼女の歌声を初めて聴いて、ふと“生命力のある歌声”だなと感じた。ネガティブなことを一挙に払いのけてしまうような、周りの空気がキラキラと輝き出すような、圧倒的な“歌ヂカラ”。彼女のヴォーカルの魅力は、きっとそんなところにあると思う。実際に会った本人にも、それはそれは強い生命力を感じた。よく笑い、よく話す。自らの意思をまっすぐに投げかけてきて、どんな話題であってもその言葉に淀みを感じさせない。「人生において一番大切にしているのは、後悔しないこと」――ときとして陳腐に聞こえてしまうそんな言葉も、彼女の凛とした佇まいから発せられると重厚な響きを持って迫ってくるわけで……。
Fire Lilyは、どこかグイと人を惹きつけるような言い知れぬパワーを持った不思議な人なのである。
そんな彼女を形成している重要な要素には、言うまでもなくブラック・ミュージックの存在がある。小学生のころ、夢中になって聞いていた久保田利伸のラジオ。彼がおすすめしていたアイズレー・ブラザーズ、オーティス・レディングといった往年のソウルとの出合い、それこそがすべての始まりだった。「聴いてはみたものの、当時はさっぱり良さがわからなかった(笑)」と言うが、黒い音に触れたその経験はのちにR&Bやジャズの世界へと誘う伏線となっていく。
高校時代にはモニカやアッシャーなどビルボード・チャートを賑わすR&Bにハマり、大学進学後にはジャズのサークルでバンドを組み、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンなどのカヴァーでインプロビゼーション(即興)にも挑戦するようになった。同時に、アカペラ・グループを結成してゴスペルを歌うなど、大学時代はとにかくブラック・ミュージック漬けの日々だったと語る。
「ソウルの良さをわかるようになってきたのも、このころ。チャカ・カーンは歌い手として一番影響を受けているアーティストです。自分はソウル、ジャズを歌っていきたいんだと意識し始めたのも、このくらいの時期かな」
京都の大学を卒業し、上京してからはクラブで夜な夜な自然発生的に始まるジャム・セッションに積極的に参加した。「grooveline、さかいゆう、HanaH、JAMNUTS、毎晩のようにいろんなミュージシャンがジャムっていて本当に楽しかった。今のバンド・メンバーも当時からの付き合いだし、私の音楽仲間の輪はそこから始まっているんですよ」
本格的にソロ活動を決意したのは、約3年前の話。彼女の圧巻の歌声は、沖野修也プロデュースのセッション・バンドROOT SOULへの参加をはじめ、その縁でつながったイギリス発バンド、ブラン・ニュー・ヘヴィーズのアメリカ5都市(ニューヨーク、シカゴ、ボストン、ワシントンD.C、フィラデルフィア)ツアーへの参加など、コーラス、フィーチャリング方面でも熱望されるようになっていった。ちなみにブラン・ニュー・ヘヴィーズのツアーは、ただ一人のコーラスに抜擢されたほどの快挙。ソロ・パートも披露し、シビアなリアクションで知られるアメリカのオーディエンスをも熱狂させたという。
そうした流れを経て完成したのが、記念すべきデビュー・アルバム『Eternal Story』だ。つい数年前までは「ジル・スコットのようなネオ・ソウルばかり歌っていた」と言うが、本作を聞くと、必ずしもそれだけが彼女のスタイルでないことがわかる。むしろ、そうした側面は影を潜めたように感じるのだが、それは今作からFire Lilyとして新たな道を歩み始めた証でもあるようだ。
「ブラック・ミュージックは私の音楽ライフにおける大切な部分。だけど、それだけじゃなく、日本人の私にとってリアリティのある音楽をやりたいと思ったんです。たとえば、日本語と英語とでは、同じ意味の言葉を歌っても、きっと行間に潜む感情が違うんですよね。ここ数年は、そうやっていろいろと言葉の重要性を痛感することが多くて、より日本語で歌詞を書くことの意味を考えるようになったんです。自分の中にある日本人としての感覚を大事にした歌を作りたいという想いが強かったですね」
さらに、’07年Dreams Come Trueのツアーにコーラス参加した当時を思い起こして、こう続ける。
「(吉田)美和さんは、いつもお客さんに自分の想いをまっすぐに伝えていて、だからあんなにお客さんの心に響く。それは自分の言葉で歌っているからこそなんだな、と身に沁みました。いかに素直に自分の想いが詰まった歌を歌えるか。今回はそこに向き合って、等身大の自分を表現したアルバムなんです」
より言葉が拾いやすいメロディーを。そんな意図がしかと伝わるバラード主体の構成がまたいい。Fire Lilyの歌声そのものが際立っていて、つまり前述した“圧倒的な歌ヂカラ”を堪能できる内容なのだ。これはまさしくFire Lilyの真骨頂的アルバムと言えるだろう。
「Eternal Story」(永遠の物語)というタイトルには、「人生最期のときまで歌い続ける」というFire Lilyの決意表明的な想いが込められていると言う。
Fire Lily、それはアフリカの野火のあとの原野に忽然と咲く花。絶望の大地に希望を運ぶ花。「私の音楽もそうでありたいという願いを込めて」――ここから始まるFire Lilyの物語、その力強く逞しい第一歩を祝福したい。
text by 岡部徳枝