12曲が収録されている4thアルバム『色彩』。12色のイメージカラーを各曲の軸としながら、様々な出会いを通して彩りを増す人生を描いた作品となった。温かな歌声と作風が魅力のハナフサマユだが、新しいアプローチに取り組んでいるのも大きな聴きどころだ。12曲それぞれに込めた想い、制作エピソードについて彼女が語ってくれた。
――「春と門出」が配信リリースされたのは、今年の3月でしたね。
ハナフサ:はい。アルバムのお話が出たのは、この曲を作った後でした。「春と門出」は桜のピンクのイメージだったので、「いろんな色彩をアルバムで表現できたらいいな」と思ったんです。6月にリリースした「栄光に向かって」もオリンピックからの連想で金銀銅とかを思い浮かべつつ、「光を求める」という意味で黄色ですし、全曲に色のイメージがあるのが、今回のアルバムです。
――絵具やクレヨンは12色セットが多いので12曲?
ハナフサ:はい。「12曲入りにしたいです」と言ったんです。24曲とかだと多過ぎますよね(笑)。
――(笑)。花をモチーフにして描くことが以前からありますし、ハナフサさんの曲はもともと豊かな色彩の要素があるように感じます。自然に取り組めたテーマだったのではないでしょうか?
ハナフサ:そうですね。自分の得意なところを極めつつ、挑戦もしながら作れました。今の自分ができる最大限を詰め込むことができたと思います。昔よりもいろんな曲を書けるようになったので、これからも幅広いアプローチを追求していきたいですね。例えば前作の『バートレット』の「ハコニワ」はジャジーで、私にとって新しいテイストだったんです。今までになかった一面を出していく大切さは、前作で学びました。
――『バートレット』でも感じたことですが、生楽器の心地よい音が満載なのも今作の魅力です。
ハナフサ:極力音数を増やさないことを心掛けて作ったので、「歌声と、それを活かす温かくてシンプルな音たち」というイメージです。アレンジをお願いしたみなさんにも、曲それぞれで形にしたいことを汲んでいただけました。
――例えば「エリンジウム」も心地よい仕上がりです。「個性」という色彩を肯定するメッセージを描いていますね。
ハナフサ:はい。自分の個性ってなかなかわからないですし、他の人から言ってもらえる個性も、本人が好きだと思えるとは限らないんですよね。個性を少しでも受け入れられて、認められるきっかけになる曲を作りたかったんです。
――おっしゃる通り、誰かから個性を褒められても、それが嬉しく感じられるとは限らないですよね。
ハナフサ:そうなんです。褒めてもらいたいところを褒めてもらえるとも限らないですし。
――アーティスト活動も、そういう葛藤の連続ですよね?
ハナフサ:はい。自分でも納得ができて、周りのみなさんにも「ハナフサさんは、こういうところが良いですね」と言っていただける何かを、デビューしてからだんだんと見つけられるようになった気がします。そういうことを象徴しているのが「エリンジウム」ですね。
――モチーフになっているエリンジウムはトゲトゲしていて、かなり独特な見た目の花ですね。
ハナフサ:そうなんです。私の家にあるエリンジウムがドライフラワーになっている姿を見て、「すごく逞しいな」と思ったのが曲のきっかけになりました。『Blue×Yellow』(2021年10月にリリースされた1stアルバム)を出した時に頂いた花がブルーとイエローで、そのブルーの中にあったのがエリンジウムだったんです。
――頂いた時は、どんな印象でした?
ハナフサ:最初の印象は「かわいい」ではなくて(笑)。でも、すごく長い間咲いてくれるお花でした。バラとかはドライフラワーとかにするためにいろいろしないといけないですけど、エリンジウムは何もしないままドライフラワーになってくれて。そこから愛おしさを感じるようになりました。
――花言葉も調べたそうですね。
ハナフサ:はい。いくつかある内の1つが、「光を求める」です。この曲は「個性」について描いているので、「光を求めて逞しく咲いている」というイメージですね。
――「彩りキャンバス」は、「エリンジウム」と地続きのテーマだと思いました。
ハナフサ:そうかもしれないですね。「彩りキャンバス」は、アルバムのタイトルを『色彩』にすることが決定した後に書いたんです。「白いキャンバスは何色にでも染まれるし、何だって描いていけるはずだよね?」みたいな希望を込めています。
――ハナフサさんは、絵を描くんですか?
ハナフサ:絵は本当に下手です(笑)。『バートレット』(2023年9月にリリースされた3rdアルバム)の時にキャンバスを買って梨を書いてみたりはしたんですけど。
――ハナフサさんの絵がオリジナルグッズ化される可能性は?
ハナフサ:ないです。昔やったことがあるんですけど、グッズ化はしない方がいいと思います(笑)。――(笑)。色を重ねながら描く絵画と人生は、相通ずるものがあると感じたんですね?
ハナフサ:はい。人との出会いで様々な意見とかに触れて、その度に色に染まっていくのが人生だと思うんです。出会った色の何を選ぶかによって、人生というキャンバスが変化していくんですよね。
――「彩りキャンバス」は囁くような歌から始まりますが、展開するにしたがって徐々に力強さを増していきますね。
ハナフサ:もともと私の中にあったのは、2番のAメロみたいな楽器サウンドが最初から鳴っているイメージだったんです。でも、アレンジャーさんに提示していただいたのがこの完成形に近いものだったので、それにふさわしいように歌を変えました。序盤はそれほど明るいことを言っていないので、囁くようなニュアンスから始める方が曲の良さがより広がるのかもしれないと思ったんです。
――「Be Free」もポジティブなエネルギーで満ち溢れています。
ハナフサ:明るい仕上りになりましたね。テンポは速いですけど、ロックではなくて、爽やかなポップスのテイストです。歌詞は最初、もう少し重たい感じだったんですけど、ブラッシュアップしていく中で変化しました。自分が選ぶもの次第で自由はいくらでも手にできるんですよね。「選択が必ず成功に繋がるとは限らないけど、少しは気楽に考えてもいいのかもしれない」というメッセージを込められたと思います。
――《今 in my heart》や《立ち向かっていよう》と《in your heart》とか、似ている音の響きを効果的に並べているのも、この歌詞の楽しさです。
ハナフサ:韻を意識しました。合わせたい韻の言葉を探したんです。メッセージソングは自分の個性だと思っていて、そこは大切にしつつも、何かプラスアルファの要素を加えたいんですよね。得意なものを「個性」として大切にするだけだと、面白みは生まれないんです。韻を踏んだりする歌詞は、アルバムならではの遊び心になったと思います。
――ソングライティングの幅が広がってきていますよね?
ハナフサ:そうですね。波に乗る瞬間みたいなのがあるんです。このアルバムの制作の中でも、「今月はすごい書けたな」という時がありました。自分の感覚が制作脳になっていて、ずっと言葉とかを探している時期は良いペースでしたね。
――活動のモードが、時期によって切り替わるんですか?
ハナフサ:はい。でも、制作脳になっている時期にライブをやると、何度も歌ってきたはずの既存曲の歌詞が出てこなかったりもして(笑)。
――それもハナフサさんならではの色彩という名の個性でしょうか?
ハナフサ:ポジティブに捉えるのならば(笑)。
――(笑)。「アステリズム」も素敵な曲です。とても温かいですね。
ハナフサ:ありがとうございます。「会えなくなった人が空にいる」ということを描きました。離れ離れになって会えない人に当てはめて聴くこともできると思います。
――《もえぎ色のベンチ》《あの約束を誓った狭い部屋で》とか、具体的な描写が盛り込まれているのが印象的です。
ハナフサ:《もえぎ色のベンチ》なので、この曲のイメージの色は黄緑なんです。実際に私が目にしていたベンチが黄緑だったんですけど、「もえぎ色ってこの色だったんだ」という発見がありました。「遠く離れたところから支えてくれている」と感じる存在を思い浮かべて聴いていただけたら嬉しいです。
――様々なアプローチによるラブソングも、今作には収録されていますね。
ハナフサ:はい。「ラブソングとしても捉えられる」という曲が多くなりました。例えば「October」とか。「星が降る度に」は男性目線、「Darling I love you」は女性からのラブソングです。「トリコ」は恋愛としても捉えられますし、「推しへの愛」として聴くこともできると思います。
――「トリコ」は、可愛がっているペットにも当てはまると感じました。
ハナフサ:そうですね。ご自身の「大切」に当てはめて聴いていただける曲です。
――「October」は穏やかな幸福感が伝わってきます。
ハナフサ:アルバムの発売が10月だと決まってから作ったんです。実際に書いたのは春ですけど(笑)。秋の写真を検索して、色彩や風景のイメージを頭の中に入れながら、「何気ない幸せ」みたいなことを曲にしていきました。
――「星が降る度に」は、男性のまっすぐな愛が描かれていますね。
ハナフサ:「こんなにも愛してくれる人がいたらいいなあ」という理想です。「緑」をイメージしたんですけど、この色は「優しい人」にも当てはまるように感じたんですよね。だからこの曲の男性は、「好きで堪らないから優しくしてしまう」というような人だと思います。
――ホーン、スライドギター、オルガンの音が曲の世界にとても合っています。
ハナフサ:曲の世界観を広げていただけたアレンジです。かっこいいですよね。1つ1つの音がとても綺麗です。アレンジしていただいた曲を聴くのは、いつも本当にワクワクするんですよ。「星が降る度に」は、まさにそうでした。
――「Darling I love you」は、先ほどもおっしゃったように、女性目線ですね。
ハナフサ:はい。曲の原型は昔作ったものから引っ張ってきたんですけど、アレンジに関しては、もともとのものとは違った形でアプローチをしていただきました。ハーモニカも生音ですし、すごく味が出ていますね。FLYING KIDSの伏島和雄さんと打ち合わせをした際にご提案をいただいたのが、少しレゲエ寄りのサウンドだったんです。「どうなるんだろう?」と思ったんですけど、バラードな感じのアレンジとはまた別の可能性が広がりました。曲に込めたものが、より温かく伝わる音になったと思います。
――「星が降る度に」と「Darling I love you」は、「同じカップルを描いた曲だったらいいなあ」とか思いながら聴くこともできそうです。
ハナフサ:もしそうだったら、お互いが大切に思っているカップルだということですよね。――繋がりを考えて作った2曲ではないのだとは思いますが。
ハナフサ:そうですね(笑)。でも、聴いてくださるみなさんそれぞれのそういう想像は、とても嬉しいです。――「星が降る度に」と「Darling I love you」は、ストレートな歌詞の表現によって想いが鮮やかに伝わってくる曲でもありますね。
ハナフサ:「何を言っているかなかなかわからないけど、じっくりと紐解いていくとこうかな?」という曲を作りたかった時期もあったんですけど、それが私の個性ではないと気づく瞬間があったんです。自分が得意な部分、声の性質を踏まえて考えると、誰が聴いても明快なメッセージを届けるのが個性だと思うようになりました。ストレートな歌詞を選ぶことを恐れない姿勢が、わりと今回のアルバムでは重要だった気がします。
――「素直な表現で想いを深く伝えられるアーティスト」というのは、おそらく多くのファンのみなさんも感じているハナフサさんの魅力だと思います。
ハナフサ:ありがとうございます。そうだったら嬉しいです。
――「トリコ」も、そういう面がまさに発揮されていると思います。
ハナフサ:声色に関してもかなり明るめで、可愛らしい感じで歌っています。「軽く歌おう」みたいなイメージでした。
――タイトルがカタカナなのもキャッチーです。
ハナフサ:最初は漢字の「虜」にしようかなとも思ったんです。でも、それだと何だか強めの印象なので(笑)。この曲のイメージは赤です。戦隊ものの主人公のような存在を思い浮かべて描きました。誰かを好きになると心が赤くなっていくような感じも思い浮かべています。
――色彩は様々なイメージと結びつくのが面白いですね。戦隊ものやアイドルグループの色分けも、個々のメンバーのキャラクターと結びついているじゃないですか。
ハナフサ:好きなグループの話を私の友人がしてくれて、メンバーカラーというものを知ったんです。それも今作のきっかけになったのかもしれないです。
――温かな色彩のイメージが中心のアルバムですが、ダークなトーンの曲も生まれていますね。
ハナフサ:はい。「憂さ晴らし」は、尖った想いを詰め込んでいます。芸能人とかに対する匿名の誹謗中傷がSNSとかにありますけど、「なんでそこまで言えるのかな?」と感じるんです。サウンドもエモロックみたいなことを追求しています。私の得意なタイプの表現ではないとは思うんですけど、この曲の主人公になって歌うことを心がけました。
――途中で歌にフィルターのエフェクトがかかる部分がありますね。
仮音源でもそうしてもらっていたんです。そこに合わせて歌詞を書き直しました。もともとは《ノイズの中で言い聞かせて》という歌詞ではなかったんです。
――ハナフサさんの中では珍しい作風ですが、すぐに書けたんですか?
ハナフサ:かなり大変でした(笑)。曲を書き続けていた時期に「こういうのも作ってみようか?」という話になったんですけど、全然書けなくて。何曲も書いてみた中で完成したのが、「憂さ晴らし」でした。
――「Who am I」も、他の曲とかなり異なるテイストですね。
ハナフサ:はい。自分との戦い、心の中の葛藤を描いています。ハナフサマユ本来の性格は、おそらくこっち寄りで、暗いところにいるんです(笑)。様々なみなさんと出会って、色を足していただくことで個性を輝かせる瞬間が生まれているんですよね。
――孤独に苛まれている状態から救ってくれる人との出会いのかけがえなさについて、この曲は考えさせてくれます。
ハナフサ:孤独な自分を見つけてくれる人は恋人、家族とかに限らず、例えばコンビニの店員さんとかでもいいんですよね。ふとした瞬間の「誰かがいてくれる」という感覚は、心強さに繋がるので、そういうことを描きたいと思っていました。
――孤独な時に「誰かがいてくれる」と感じるのは、例えば夜中にラジオから流れてくるパーソナリティの声とかもそうですよね?
ハナフサ:そうですね。あるいは歌も、そうなんだと思います。本当にしんどい時に耳にした歌は、「そばにいてくれる」という感覚になりますから。
――この曲は《孤独も愛したい。》で終わるのも印象的です。とても希望を感じました。
ハナフサ:孤独は一時的に消えたり、薄まったりもするんですけど、なくなるものではないんです。孤独を敵として捉えて、「やっつける!」みたいな感覚でいるからこそ苦しくなる気がします。孤独は誰かと過ごす時間があるからこそ感じるものなので、愛して受け入れることができたらいいですよね。それによって「自分」というものも見えてくると思ったので、歌詞でも孤独を愛することをゴールにしました。
――既に配信リリースされている「春と門出」と「栄光に向かって」に関しては、何か思い出すことはありますか?
ハナフサ:「春と門出」の後に夏をイメージした曲も作ることになって、もともとは別のものをいくつかピックアップしていたんです。でも、今年の夏に開催されたオリンピックや高校野球に焦点を当てることになったんです。「ハナフサならば書けると思います」と言っていただけて(笑)。それで頑張って作ったのが「栄光に向かって」です。
――「栄光に向かって」は、幅広いみなさんに聴いていただけているようですね。ネット検索すると「ハナフサマユ 栄光に向かって」と表示されるようになっています。
ハナフサ:嬉しいですね。
――約1年前は「ハナフサマユ だらしない」でしたけど……。
ハナフサ:やっとだらしなさから抜け出せたんでしょうか?(笑)。
――今のところ「栄光に向かって」「だらしない」「高槻」が、ハナフサさんを検索すると出てくるワードの上位3つみたいです。
ハナフサ:「ハナフサマユはだらしないの?」とまだ思われているのかも(笑)。でも、それだけずっと「だらしない」も聴いていただけているということですから嬉しいですね。
――収録されている12曲について語っていただきましたが、何か付け加えたいことはありますか?
ハナフサ:全体的に温かさのあるアルバムになったと思います。今の自分ができる精一杯の遊びや工夫も反映できたので、大切な作品になりました。聴いてくださるみなさんにとってもそうなったら嬉しいです。
――リリース後は、ツアーですね。ワンマンツアーと2マンツアーが並行することになりますが、このような形になった理由は?
ハナフサ:ワンマンツアーだけで終わるのは寂しかったので、今までにすごくお世話になってきたみなさんや、ここ数年でご一緒させていただいた方々にお声がけしたんです。ワンマンだからこそ感じられるハナフサマユの色もあるでしょうし、2マンライブでみなさんと共演することで生まれる色もあると思います。ぜひ会場に足を運んで、そういう違いも楽しんでいただきたいですね。ツアーが始まるまでに、しっかり練習をしたいです。アルバムの曲に込められたメッセージをちゃんとお届けしたいと思っています。
取材:田中 大
■NEW 4th ALBUM『色彩』
発売日:10月2日(水)
楽曲配信は→コチラ
品番:TKCA-75246 価格:2,800円(税込)
<CD収録楽曲>
M1. エリンジウム
M2. 彩りキャンバス
M3. October
M4. Be Free
M5. Who am I
M6. 憂さ晴らし
M7. 星が降る度に
M8. 春と門出
M9. Darling I love you
M10. 栄光に向かって
M11. トリコ
M12. アステリズム
ツアー情報
■「メジャー4th フルアルバム「色彩」リリースツアー ~彩り~」
【愛知】ell.FITS ALL
日時:11月1日(金)OPEN19:00 / START19:30
【大阪】LIVE SQUARE 2nd LINE
日時:11月4日(月/祝)OPEN18:00 / START18:30
【東京】渋谷duo MUSIC EXCHAGE
日時:11月14日(木)OPEN18:45 / START19:30
【大阪】なんばハッチ(※ツアーファイナル)
日時:2025年4月25日(金)OPEN18:00 / START19:00
■「ハナフサマユ2マンツアー ~色とりどり~」
【関東(東京)】渋谷TAKE OFF7
日時:10月27日(日)
ゲスト:橋爪もも
【関西(神戸)】神戸C-Lump&UP
日時:11月30日(土)
ゲスト:さちかぜあきの
【山陰(島根)】会場(※後日発表)
日時:2025年1月開催予定(※詳細後日発表)
ゲスト:山根万理奈
【東海(名古屋)】会場(※後日発表)
日時:2025年2月開催予定(※詳細後日発表)
ゲスト:富金原佑菜
【九州(福岡)】会場(※後日発表)
日時:2025年3月開催予定(※詳細後日発表)
ゲスト:立花綾香
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