浜田麻里ライブレポート
10月10日と11日の両日にわたり、さいたまスーパーアリーナにて開催された『LOUD PARK 2015』。ヘヴィ・メタルに特化された国内唯一の大型イベントとしてすでに定着しているこのフェスが、初めて行なわれたのは2006年のこと。今年は記念すべき第10回開催ということもあり、初年度と同様にSLAYERとMEGADETHが各日のヘッドライナーに起用されたのをはじめ、例年にも増して純度と充実度の高い出演ラインナップが出揃い、そんななか、浜田麻里も満を持してこの鋼鉄の祭典への初出場を果たすことになった。

現在はちょうど来年早々にリリース予定のニュー・アルバムの制作期間中であるはずの浜田。デビュー30周年にちなんだ一連の“特例の連続”ともいうべき動きのなかでは、久しぶりのTV出演や『SUMMER SONIC』といった大型フェスへの登場などにより、変わらぬ姿と歌声、いや、ますます力強さと艶やかさを増したそのたたずまいで、久しく彼女の音楽から遠ざかっていた往年のファンを驚かせるのみならず、80年代や90年代の浜田麻里を知らない世代にも、その比類なき存在感を印象づけることに成功していた。とはいえ、そうしたアニヴァーサリー・モードはすでに自身のなかでは終了しているはずだし、ひとたび創作活動に突入すると他のことには目もくれないほど集中する彼女であるだけに、本来ならばスタジオワークに専念していたかった時期でもあるはずだ。すなわち今回の『LOUD PARK』への出演は、本当に“特例中の特例”と言っていいはずなのである。

しかし当然ながら、それが、素晴らしい結果へと繋がった。

この日、浜田は増崎孝司(g)、藤井陽一(g)、山田友則(b)、増田孝宣(key)、宮脇“JOE”知史(ds)、ERI(cho)、そして中尾昌史(2nd key, S.E.)という、彼女自身が信頼を置くお馴染みの顔ぶれを引き連れてステージに登場。午前11時45分からという早い時間帯への出演であるにもかかわらず、巨大アリーナのフロアは熱心なファンが集結し、スタンド席からも視線が集中しているのがわかる。

最初に炸裂したのは、「Fantasia」。ライヴにおける着火剤としての役割を担うこのナンバーは、見事なまでの即効性の高さにより、その重責を果たしていた。実際のところ、その場には浜田の楽曲を知り尽くしているファンばかりではなく「せっかくの機会だから観てみよう」程度の観客もたくさんいたはずだ。が、そのオープニング・チューンが着地に至っても、誰もその場を動こうとはしない。これは昨年夏の『SUMMER SONIC』の際に目撃したのとまったく同じ光景だ。ステージから聴こえてくる完璧な演奏と絶対的な歌声は、好奇心や興味本位で眺めていたはずの者たちの身動きさえ奪ってしまうのである。

その「Fantasia」の余韻のなかで聴こえてきたのは、もの悲しげなピアノの調べ。「Momentalia」である。こうして2000年代以降の楽曲の連続で快調な滑り出しをみせると、続いては彼女自身にとっての初のシングル楽曲にあたる「Blue Revolution」(1985年)を披露。しかしそこに、過度にノスタルジックな空気はない。実際のところ、この『LOUD PARK』には浜田自身に限らず、30年を超える活動歴を持つような出演者たちも少なからず名を連ねているわけだが、そこで披露される初期の楽曲が感じさせるのは、多くの場合、懐かしさよりも、錆びつくことのない楽曲と演者の力だったりする。それは、この「Blue Revolution」についてもまったく同じことだった。続けざまにアカペラで丁寧に歌いあげられた楽曲のタイトルが「Nostalgia」だという事実にも、彼女なりの何らかのメッセージが込められていたのかもしれない。

その歌声に酔いしれていると、シンフォニックな響きが聴こえてきた。そして白いスモークのたちこめるステージの上手側に、赤い豹柄のジャンプスーツに身を包んだギタリストの姿が。高崎晃の登場である。

この特別な編成で披露されたのは、現在の彼女を代表する楽曲のひとつともいうべき「Stay Gold」。海外には女性のソプラノ・ヴォーカルをフィーチュアしたシンフォニック・メタル・バンドも数多いが、どこか形骸化されたところのあるそうしたカテゴリーの楽曲とは別次元の魅力がこの楽曲には感じられる。この日のオーディエンスはいわゆる幅広い層の音楽ファンではなく、メタルに精通し、その種の音楽には耳の超えたリスナーであるはずだし、だからこそそうした部分についてもより有効に届いたはずだと期待したいところである。実際、そこで繰り広げられたきわめて高度な演奏と、尋常ではない高低差を伴ったメロディ・ラインを完璧かつ情感過多ともいえるほどエモーショナルに紡ぎあげていく歌声の凄まじさには、誰もが心を打たれていたに違いない。

そうした「Stay Gold」の凄味にある種の酩酊感をおぼえていると、続いては高崎と増崎という両ギタリストの絡みも見事な「Historia」、そして宮脇の短いドラム・ソロへ。彼の繰り出すビートが徐々に加速していくと、なんとあの「Don’t Change Your Mind」が爆裂した。1983年発表の2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT~炎の誓い』のオープニングを飾っていた、ハイトーン・シャウトが印象的なこのファスト・チューンは、まさにメタル・クイーンの異名をとっていた当時の彼女を象徴するもの。長らく封印されていたようなところがあるが、30周年記念ライヴの際にパンドラの箱の紐が解かれたあの瞬間、彼女はこの曲の持つインパクトの有効性を再確認したのかもしれない。

前述の『SUMMER SONIC』でも多くの目撃者たちを唖然とさせていたこの曲は、この日の多くの観客のストライクゾーンを直撃していたようだ。しかもこの曲が、引き続き高崎晃を伴った顔ぶれで演奏されているというのがたまらない。いわばメタル・クイーンと、キングの揃い踏み。絢爛豪華なその光景が伝えてくれるのは、やはりノスタルジックな何かではなく、「いまだに誰もこれを超えられていない」という厳然たる事実なのである。

こうして数々の印象的なシーンをもたらしながら、『LOUD PARK 2015』での浜田麻里のステージは、やはり近年の彼女の代表曲のひとつといえる「Somebody’s Calling」の熱狂のなかで幕を閉じた。前述の通り、素晴らしい出演ラインナップがひしめいていた今回のこのフェスでは、各ステージで名演と呼べるものが重ねられていったが、間違いなく彼女のライヴ・パフォーマンスもまた、両日を通じてベストのひとつに数えられるべきものだったといえる。彼女自身の活動サイクルのなかにあっては、むしろ中途半端な時期に訪れたこの機会ではあったかもしれない。が、技術力の高さや楽曲の普遍性といったものを重んじ、“生”の力量を見極める力が高いはずのメタル愛好家たちに浜田麻里の“現在”がポジティヴに受け止められたことには、大いに意味と価値があったはずだし、ここで彼女自身が得た何かが、そろそろ制作も佳境に差し掛かりつつあるはずの次なるアルバムにとっての、何らかの“鍵”になってくるのではないかと僕は考えている。

もちろん彼女は単なるロック・ヴォーカリストではないし、その歌声を愛する人たちのなかには、メタルを好まない人たちもまた含まれているはずだ。が、この日の彼女のステージを目撃して僕自身が改めて実感させられたのは、浜田麻里がヘヴィ・メタルを選んだのではなく、ヘヴィ・メタルが彼女を選んだのだということ。そんなこの日の記憶を反芻しながら、『Legenda』に続く新たなマスターピースの到着を待ちたいところである。
 
増田勇一





 

■浜田麻里 プロフィール

中学時代よりスタジオヴォーカリストとして、CMソング等の仕事を始める。大学時代に参加した女性ロックバンド『MISTY CATS』が“EAST WEST'81”の東京ブロックに出場し、スカウトされる。83年4月21日、アルバム『LUNATIC DOLL』でデビュー。
アイドル全盛時代に、本格派女性ロックボーカリストとして瞬く間にスターダムにのし上がり、ヘヴィメタルの女王として確固たる地位 を確立する。

87年よりレコーディングの拠点をL.Aに移し、海外のトップミュージシャンとのコラボレートが始まる。それと同時に、それまでのハードロック・ヘヴィメ タル色の強い作品だけでなく、より幅の広い音楽性を発揮しはじめる。88年、ソウルオリンピックNHKイメージソング『Heart and Soul』が初のベスト10入りとなるオリコンチャート6位を獲得。それまでのロックファンだけでなく、一気にナショナルアーティストとしての認知を得る。

翌89年にリリースしたシングル『Return to Myself~しない、しない、ナツ~』、アルバム『Return to Myself』がオリコンチャートで1位を獲得。90年にはTOTOのメンバーとのセッションやL.Aのライブハウス「ROXY」でのライブを成功させる 等、内外で精力的な活動をするようになる。

93年、MCA Internationalと世界契約。アジアを中心とした海外でも活動をするようになる。94年、ヨーロッパに進出。KIM WILDと共にヨーロッパツアーを敢行。日本が誇る女性ヴォーカリストとなる。

97年のレコード会社移籍に伴い活動が一時停滞し、コンサート休止期間に入るも、アルバムリリースを柱とした音楽制作をコンスタントに続け、2002年にはライヴ活動も再開。精力的な音楽活動が戻る。

デビュー20周年・25周年と、スペシャルコンサート、ツアーを行い、各コンサートDVDや記念CDを多数発表。その勢いは止まることなく、新作を世に送り出し続けツアーも実施。

デビュー30周年を迎えた2013年、アニバーサリーベスト「Inclination lll」のリリースを皮切りに、レコードメーカーの枠を超えて周年記念作品を多数発売。

約20年振りのTV出演や30周年記念ライブツアーを行い、東京国際フォーラム ホールAでのFINAL公演も大盛況のうち幕を閉じる。この後も夏フェス『SUMMER SONIC2014』への出演や、自身初となるフルオーケストラとの共演によるコンサートを行う等、その圧倒的な歌唱力とパフォーマンスで魅せ続ける。

現在は、2016年1月発売のオリジナルアルバム「Mission」(25作目)を制作中。3月から行われるこのアルバムツアーも発表されている。