The Renaissance

TOPICS

「Renaissance 1er」ライナーノーツ

【The Renaissance 『Renaissance 1er』】-[ライナーノーツ] 


“世界基準”のJ-POP

名うてのミュージシャン小原礼と屋敷豪太の新ユニット“The Renaissance”のデビューアルバム『Renaissance 1er』は、大方の予想を裏切って、全曲2人の歌入り、しかも日本語詞(1曲はフランス語)の純J-POP8曲が収められている。

 小原は1972年にサディスティック・ミカ・バンドにベーシストとして参加。日本のバンドとして初めてイギリス・デビューしてその名を轟かせる。その後、渡米して、グラミー賞歌手ボニー・レイットとツアーを共にした。日本に帰国して、2005年からは奥田民生のバンドに加わって大活躍中だ。

 一方の屋敷は、80年代に”ミュート・ビート“で活躍した後、イギリスに渡り、ソウル・Ⅱ・ソウルのプログラミングを担当して全英チャート・イン。シンプリー・レッドに加入して、91年にはアルバム『Stars』を全世界で大ヒットさせる。帰国してからは藤井フミヤ、槇原敬之、スガシカオなどのレコーディングやライブで、小原と同じく大活躍している。 

 つまりThe Renaissanceの2人は、日本のロック・レジェンドであり、しかも海外で認められ、さらに今のJ-POP&J-ROCKシーンに大きな影響力を持っている傑出したミュージシャンなのだ。そのキャリアからすれば、The Renaissanceの音楽性は2人のベース&ドラムを軸にして、①インスト、②ゲストボーカル入り、③英語詞という憶測が成り立つ。しかし『Renaissance 1er』から聴こえてくるのは、美メロにキュートでユーモラスな歌詞の乗った、ハイクオリティのJ-POPなのだから楽しくなる。今回、The Renaissanceが生み出したのは、“アップデートされた世界基準のJ-POP”。それは今までありそうでなかった、フレッシュで魅力的な音楽なのだ。

 中でも2人のボーカル・ハーモニーがいい。リードボーカルを取っているときはそれぞれ違う味わいがあるのだが、ひとたびハモり始めると人間味あふれる温かいサウンドが出現する。故・加藤和彦の最後のバンド“VITAMIN-Q featuring ANZA”で2人は合流し、そのときハモってみたらあまりに相性がいいのでThe Renaissanceを結成したというのだから、ある意味それは当然のことなのだろう。

 加えて『Renaissance 1er』は、ソングライティングが素晴らしい。民生、フミヤ、敬之、シカオという日本のトップ・アーティストたちと活動を共にすることで、2人は彼らの歌詞やボーカリゼーションのいいところを自然に吸収してしまった。たとえばリードトラックの「「愛のために」とか言っちゃって」は、大人のシャイな恋心を絶妙なタッチで描いていて、笑いながら共感できる。そこには民生たちが築いてきた“2010年代のJ-POP&J-ROCK”のエッセンスと、小原と屋敷が身に付けてきたサウンドが同居している。先の言葉を正確に言うと、J-POP&J-ROCKの良心と、世界基準のグルーヴが結びついたのが、The Renaissanceなのだ。
 
今、奥田、藤井、槇原、スガを初め、吉井和哉、斉藤和義たち40代のアーティストが牽引している“日本の男の音楽シーン”がある。さらに彼らのフォロアーたちが、J-POP&J-ROCKの未来を築こうと頑張っている。そうしてみると、60代の小原と50代の屋敷は、反対側からJ-POP&J-ROCKを検証発展させようとしているように思える。ちなみにThe Renaissanceの2人に、そうした後輩たちに向けたアドバイスを訊いてみたら、「レコーディングでどんなに忙しくても、しっかりランチを楽しみましょう」という答が返ってきた。そう、この呼吸、この感じ。「シャンパンも添えると、もっと楽しいよ」。粋な先輩方は、こんなやり方でワールドワイドになったのだった。
だからThe Renaissanceを、すべてのJ-POP&J-ROCKファンに聴いて欲しい。若い世代が未来を作るのは確かだが、小原と屋敷はすでに未来を生きている。未来のJ-POP&J-ROCKは、大笑いして楽しむ大人のものなのだ。

 


全曲解説

1 「愛のために」とか言っちゃって
 奥田民生の大ヒット曲「愛のために」と関係ありそうで、なさそうな大人のラブソング。歌詞にストーンズの♪Ruby Tuesday♪というフレーズがあるが、しっかり“ルビー・チューズデイ”とカタカナで歌っているのがポイントだ。「だってJ-POPですから」(豪太)。「スモール・フェイセスと植木等を合わせてみました」(礼)。ニッポンの歌心がビシビシ伝わってくる。

2 YOU ARE MINE
 歌詞はピュアな愛の言葉なのに、脱力したブギーのリズムがグッとくる。サビの2拍3連に、2人ならではグルーヴが宿る。「ブルースの巨人、ロバート・ジョンソンみたいでしょ」(礼)と言われてもよくわからないが、一途な男のテレまくる心境が奥底に秘められているのが嬉しい。

3 Midnight Special
 洋楽ヒット曲の決まり文句満載の歌詞が笑える。しかも主人公は、かなりの遊び人。バックコーラスの尾崎亜美さん(礼の奥さん)が、旦那の好みを知り尽くしたセクシーボイスを、これでもかと繰り出すのがキャッチ―だ。ギターの民生さんも、極力先輩を立てつつ大暴れしていて、これまたさすがなのだった。

4 バーディー 
気分はPGAなのに、表彰式ではブービーメーカーという、アマチュア・ゴルファーのペーソスを描いた快心作。豪太が「礼さんの作詞能力は進化の真っ最中」と絶賛すれば、「こんな歌、アリス・クーパーも書けないだろう」と礼は自画自賛。ちなみにアリスはグラムロッカーのくせにゴルフ好きで有名な人。

5 Un Oiseau Bleu
 2人が敬愛する加藤和彦さんに捧げた歌。「訃報を知って、頭の中が真っ白になった。歌詞は日本に帰る飛行機の中で書いた」と礼は5年前を思い出す。しかしどうしても日本語詞が合わず、フランス語に翻訳して録音された。スリーフィンガーの名手だった故人を偲ぶギター・アレンジが秀逸だ。

6 アルカディア
スタイリスティックスを彷彿とさせる、超オシャレなラブソング。アルカディアとは古代ギリシャ語で、理想郷のこと。「礼さんに刺激されて、愛の理想郷を書いてみました」(豪太)。まさにAdult-Oriented J-ROCK(略称:AOJR)と呼びたくなる完成度だ。天才・亜美さんによるキーボード・エディットの効果が絶大。

 旅烏
 「ボニー・レイットとのツアーで見た景色を思い出して書いた」(礼)。「あ、そうなの? 僕はチーチ&チョンを思い出したけど」(豪太)。チーチ&チョンとは、大爆笑マリファナ映画『スモーキング大作戦』を作ったコメディアン。どちらにしても大草原を思わせるアメリカンなスライドギターがかっこいい。

8 Not My Type
 「“どぶろっく”だよ、これ(笑)。①の植木等にも近い」(礼)という言葉どおり、「嫌よ嫌よも好きのウチ」という内容のひとりよがりなラブソング。こんな面白歌詞を、本格的なR&Bのビートに乗せてしまうアイデアがThe Renaissanceの真骨頂。2人の自宅スタジオ録音の良さが炸裂して、リラックスした2人のハモが楽しめる好テイクだ。

text by 平山雄一